2011(平成23)年7月 山口新聞『東流西流』
 
 山口新聞『東流西流』に掲載された第二回目です。一回目が掲載された後に、いろんなところから思わぬ反響があり、驚いています。 








 長門市出身の童謡詩人金子みすゞさんの『お仏壇』という詩に「朝と晩とにおばあさま、いつもお燈明あげるのよ。なかはすっかり黄金だから、御殿のように、かがやくの」という一節があります。昔は日常生活の中に、金や赤という色はありませんでしたから、家の中で一番明るい場所は、お仏壇でした。ところが現代社会は「自分を輝かせよう」という時代ですから、お仏壇の光は見えにくくなり、今では家の中で一番暗い場所になってしまいました。しかし、照らされるということは生きていく上で非常に大切な経験です。照らされるからこそ、陰が見える。陰とは自分の弱さ、愚かさでもありますが、同時にその弱くて愚かな私を支えて下さる「お陰さま」の世界でもあるのです。

 若者の「生きづらさ」を、精神面から経済面から発信しておられる雨宮処凛さんは、近頃の若者は人に迷惑をかけることを異常に怖れ、「迷惑をかけるくらいなら自殺する」と真剣に考えていると指摘されています。
 私たちは、人に迷惑をかけなくては生きていけない存在です。ところが、照らされる経験がないばかりに、陰が見えなくなったことで「お陰さま」も「お互いさま」も見失い、自分の弱さ愚かさとも向き合えない、心寂しい若者を生み出す世の中になってしまいました。皆さんには、照らされる世界がありますか。陰を教えて下さる方と出遇われていますか。■