2009(平成21)年12月号  



  恒例となりました、今年一年を象徴する流行語大賞に、『政権交代』が輝きました。これまでの価値観や生活スタイル、私たちを取り巻く環境が大きく変わっていく、いわば過渡期ですから、今までのやり方では通用しないものもたくさん出てきています。その閉塞感の中で、何かを大きく変えなくてはならないという思いが、民主党への「政権交代」という形になったのでしょうか。考えてみれば、昨年はオバマ米大統領の「チェンジ」という言葉が注目を集めました。
 ただ、変えなくてはならないものもあれば、変えてはならないものもあります。変わっていく時代の中で見失われた大切なものもあるはずです。


 昔は子どもが買い物に行くと、店のおばちゃんに怒られたり、教えられたりということがありました。子どもは未熟な存在だから、大人たちで教え育てていくという考えが前提にあったからです。
 ところが、今は大人であろうが子どもであろうが、お金さえ持っていれば一人の「消費者」として扱われます。未熟なままに「お客様は神様」だからと厚遇される中で、「お金を払っている者が上」という意識が暴走し、少しの待ち時間でイライラしたり、「あなたは、私に尽くすべきだ」「何を言っても許される」と過剰なサービスを要求する。そんな時代に、そんな私になっていないかと考えさせられるのです。
 ≪未熟な存在が育てられていく中で、自己中心の姿を見つめ直し、他者を尊重するところに人間としての成熟はある≫と言う考え方は、ほとんど見失われているのではないでしょうか。「消費者」という≪お金さえあれば、未熟なままで万能の立場≫を得ることができる世の中に変わったことで、殺伐とした世の中になってしまいました。


 神戸女学院大学の内田樹教授は、「少子化社会などと言われるが、今の時代は(年齢を重ねただけの)未熟な子どもばかりが増えている多子化社会である」と言われています。
また、「消費者」の立場を得ることには、大きな落とし穴があります。それは、≪お金さえ払ってもらえたら、あなたでなくてもよい≫という立場を、売り手側に与えるということです。そこには、あなたの顔や温もりは問題にされません。あなたのかけがえのなさ、尊さを自ら放棄する立場、それが「消費者」なのです。病院や学校でさえも、その立場からサービスが要求されているのですから、恐ろしいことだとは思いませんか。
 
 阿弥陀如来とは、「あなたの人生は、かけがえのない尊いものである」と、どこまでも呼び続けて下さる仏様です。つまり仏法とは、未熟である私に、すべてのいのちの尊さ、かけがえのなさを知らしめ、それを尊ぶ者に育てて下さる教えなのです。
考えてみれば、民主党関連では「事業仕分け」という言葉も流行語大賞トップテンに選ばれています。変えなくてはならないものと、変えてはならない大切なものを、仏法をよりどころとして仕分けていく。そんな営みの大切さを、強く感じる年の瀬です。■