2010(平成22)年8月号  
 



 お盆とは、自分の足元を見つめ直す大切なご縁です。故郷に帰り、自分がどのように生まれ、育てられてきたかという自分の根っこを見つめ直す。いのちの連なりを深く味わう。そして、今この私が、どのような世界に支えられて生きているのかを問い返す。そんな大切なご縁が、今ではすっかり軽いものとして扱われているようです。

 明治安田生命が毎年行っている名前ランキング調査によると、2009年度生まれの男の子の第1位は「大翔」くん(読み方は、ヒロト・ハルト・ヤマト・・・等々)だそうです。そして、第2位は「翔」(ショウ・カケル・ソラ)くん。うちの子どもたちが通っている小学校にも、「翔太」くんや「翔也」くんや「翔大」くんと、「翔」という字のついた名前がたくさんいます。(ちなみに、「大翔」くんは、なんと2005年から5年間で1位が4回!ダントツの人気です。)人気の秘密はというと、「 大空高く翔るような活躍≠ニ明るくのびのびとした成長≠期待する親の願いが込められているのではないか」と言われています。羽を広げて大空を翔る鳥は、まさしく自由の象徴です。ところがその鳥にしても、いつまでも飛び続けるわけにはいきません。止まり木がなければ、その木を支える大地がなければ、帰っていく巣がなければ、翔ぶことはできないのです。


 『徹子の部屋』でお馴染みの黒柳徹子さんは、ユニセフ大使として難民キャンプなどで、親を亡くした子どもたちをぎゅっと抱きしめるという活動をされています。子どもにとって、抱きしめられるという経験は、その成長に大きな影響を与えるそうです。
 またある方は、しっかり抱きしめられて育った子どもの方が、社会に飛び出す力を身につけると言われます。どんなことがあっても私を受け止めてくれる場所、無条件に私を受け入れてくれる存在があるという安心感は、思い切って前に進める力を生み出すからだそうですが、逆に早くから自立心を養うためといって、ふれあいを拒否するような行動は、子どもに「どうしたら、僕は抱きしめてもらえるのだろう」「どんな条件があれば、僕は認められるのか」という不安感を与えてしまい、結果的には子どもたちの自立心を奪うのだそうです。 大空高く翔るような活躍≠ノは、まず足元がしっかりしなくてはならないということなのでしょう。

 私は何も、全国の「大翔」くんや「翔」くんたちの名前がいけないというのではありません。足元がしっかりしているからこそ、大きく翔ぶことができるということを、忘れないで欲しいのです。


 親鸞聖人は、「心を弘誓の仏地に樹て」と言われています。私たちをいつも願い支えて下さる仏様の大地に、しっかりと根を張って生きる。その大地を通して、私を支え、受け止めて下さる人々と、そしていのちの連なりに目覚めていく。明るくのびのびとした成長≠育むとは、このような営みから始まるのだと教えられるのです。
 お盆とは、自分の足元を見つめ直す大切なご縁です。そこには、私が立つよりも先に、私を支えて下さっていた、大きな大きな大地がありました。■