2017(平成29)年12月号





今年も、あっという間に終わろうとしています。本当に忙しい年でした。慌ただしくも心豊かに過ごせれば良かったのでしょうが、結局心貧しく終わったような気がします。だからこそ、振り返ることで次の年へと活かさねばなりません。ということで、毎年恒例の流行語大賞にノミネートされた言葉から今年一年を振り返り、住職が独断と偏見で選ぶ「今年一年を表す言葉」を決定してみようと思います。


「現代用語の基礎知識選 2017ユーキャン新語・流行語大賞」の候補30語より、
   住職の選んだ言葉
    魔の2回生/忖度/○○ファースト/ポスト真実
    フェイクニュース/ちーがーうーだーろー!




「魔の2回生」

十月に行われた衆議院議員総選挙。小池旋風への便乗で一発逆転を狙った民主党・前原誠司党首の思惑は、小池さんの「排除します」発言以降の逆風で大きく外れ、野党は大惨敗となりました。風や空気に頼ると、当然逆風には脆くなります。一発逆転狙いは、博打の負けパターンであり、人生を失敗させる思考法なのだとか。そろそろ風や空気に振り回されることをやめて、地に足をつけ丁寧に積み重ねていくべきではないでしょうか。そういう意味において、野党で唯一躍進した立憲民主党の枝野幸男党首が「草の根からの民主主義を」と掲げられていたことには、好感を持ちました。考えてみれば、自民党の腰の強さも、野党の失策だけではなく、長い歴史の中で培われた根っこによるものだと思います。とはいえその自民党も、風に乗って当選された方々が不祥事を繰り返し「魔の2回生」と呼ばれていることを考えると、足元を見失いかけているのかもしれません。



「忖 度」
 さて、上半期に最も注目された「忖度」も、空気を優先したことで有名になった言葉です。安倍一強の驕りが「空気を読み、上役の意図を推察する」状況を作り出しているのではないかと批判されたことで、有名になりました。ちなみに、空気を読むことと、配慮することは、まったく別物です。配慮とは、相手を大切にしようとする思いやりの心、他者への想像力です。しかし空気を読むとは、自分の立ち位置や利益・不利益が優先されるもの。空気が許せば不正も、いじめや差別も戦争も、平然と行われるようになってしまいます。かつてビートたけしさんが、赤信号、みんなで渡れば怖くない≠ニ喝破した通りです。



「〇〇ファースト」
近頃は、意見の違う他者へ配慮するよりも、自分の思いが一番だという時代になりました。「〇〇ファースト」は、トランプ米大統領の自国中心主義「アメリカ・ファースト」で、注目された言葉です。自分さえ良ければいいという考えは、人間が本来持っているものではありますが、ここまで恥じらいもなく剥き出しになると、ブレーキの壊れた暴走車のようで恐ろしくもあります。

ちなみに小池都知事が使われた「都民ファースト」は、トランプさんとは違い、政治の場から排除された都民への配慮をアピールしたものでしょう。しかし、小池さんの側近・若狭勝衆院議員が立ち上げた政治団体「日本ファーストの会」という名称は、いかがなものかと思いました。国政を視野に入れるのであるなら、流れとしては「国民ファースト」でしょうが、他団体が既に使用していたという事情があったようです。しかし、このネーミングでは「日本さえ良ければいい」と主張しているようにしか思えません。誰か冷静に指摘してくれる人はいなかったのでしょうか。

立場の違う人に、違う角度から指摘してもらうことは、とても重要なことです。なぜなら、完璧な人間などいないのですから。仏教では、あるがままに物事を見、知ることを「如実知見」と言います。しかし、これは仏様の智慧の話。逆に言えば、偏った見方しかできない私たちであることを知らしめる言葉です。だからこそ、その自覚のもとに様々な角度の指摘に耳を傾けることが大切だと教えられるのです。



「ポスト真実」「フェイクニュース」

ところが、冷静で客観的な事実よりも、自分にとって都合の良い事実だけを優先した感情的な意見が、政治判断にも大きな影響力を持つようになりました。これを「ポスト真実」と言います。ポストとは「…以後」「…のあと」という意味で、転じて「重要ではない」ということのようです。真実は重要ではない。それよりも自分ファースト。私が正義。おまけに、インターネットの普及によって「フェイクニュース」(嘘のニュース)も拡散されていますから、ことは深刻です。自分にとって不都合な情報は排除し、嘘かどうかも確認することなく都合の良い情報だけを振り回し、自分が正しいと主張する。そんな状況に、ますます拍車がかかっています。




「ちーがーうーだーろー!」
そうなると、反対する他者は邪魔になり、思い通りにならない他者は許せなくなります。豊田真由子元議員のパワハラ発言「ちーがーうーだーろー!」も、思い通りに動かない秘書は罵倒されて当然だという感覚から来ているのではないでしょうか。そうなれば、弱い立場にいると大変です。たとえそれが間違ったことでも、上司ファーストで接し、忖度しなければ、排除されてしまいますから。

勢いがあり、風に乗っているうちは自分ファーストで良いのかもしれません。しかし風向きが変わると、今度は排除される側になるということを、豊田さんのその後が教えてくれています。そういえば、豊田さんも「魔の2回生」の一人。風に頼る者は風で堕とされ、排除する者はいずれ排除される。それは小池さんも身に染みておられると思います。

「排除したつもりが 自分 排除され」
            (2017年11月15日毎日新聞万能川柳)

 

放送作家の草分け的存在で、『上を向いて歩こう』など多くのヒット曲の作詞など多方面で活躍された永六輔さんは「自分を叱ってくれる人は、探してでも見つけろ」と言われていたそうです。歳をとっても経験を積んでも、完璧になったわけでも悟りを開いたわけでもありません。ならば、見落としていた大切なことを指摘してくれる人がいるということは、有り難いことのはず。自らを問い、振り返ることがなかったら、成長もありません。それが地に足をつけた生き方ではないでしょうか。違う意見を排除すれば、視野も狭まり、考えも偏ります。自民党も、かつては党内に様々な意見と立場があり、議論や配慮の中で、落としどころを探りながら深め合うことで、根を張ってきたはずです。



住職が選んだ言葉は…

ということで住職が選ぶ「今年一年をあらわす言葉」は、本家の流行語大賞ではノミネートされませんでしたが、小池旋風を逆風に変えたひと言、「排除します」に決定したいと思います。まさに、都合の悪い者は排除し、都合が悪くなると排除される時代です。だからこそ、摂取不捨(どんな者も、摂め取り捨てない)の本願をたて、私たちに呼びかけられている阿弥陀様の心を深く味わい、地に足をつけて新しい年を迎えたいと思うのです。今年一年間、お世話になりました。有難うございました。来年も、よろしくお願いいたします。■