日本大学アメリカンフットボール部の選手が、悪質なタックルで相手選手を負傷させたことが、話題になりました。アメフトでは、プレー中はどの選手にもタックルをすることが許されています。ところが今回は、プレーが中断して気を抜いた無防備なところに、背後からタックルをするという悪質で危険なものでした。しかも、監督やコーチの「相手選手を潰しに行け」「そうすれば、試合に出してやる」という指示によるものだったという選手の発言で、問題はさらに大きくなったのです。
その後の警察捜査では、監督とコーチの指示があったことは証明されず、立件は見送られました。テレビや新聞を通して、「タックルは指導者の指示に違いない」という決めつけ、監督・コーチへのバッシングの異常さは、いかがなものかと思わざるを得ません。ただ、指示があったことが証明されなくても、監督・コーチの責任は大きいと思います。
試合に出たいと思う選手にとって、出場者を決める権限を持つ監督は権力者≠ネのです。監督の一言は、大きな影響力となります。「相手を潰せ」という言葉は、部内では「激しく行け」という意味で使われていたようですが、それを「怪我をさせろ」と受け止めざるを得ないほど、監督の存在感が大きかったのは間違いないことでしょう。もしかすると忖度が起きて、そんな空気が熟成されていたのかも。その影響力を監督自身が自覚しなかったことには、大きな責任があると思います。
お婆ちゃんが歩いている側を、小さな子どもが懸命に三輪車をこいで走り抜けても、お婆ちゃんは何とも思わないでしょう。しかしその側を、猛スピードでダンプカーが走り抜けたらどうでしょうか。お婆ちゃんは驚き、よろけ、怪我をしてしまうかもしれません。だからこそ、ダンプカーの運転手さんは、周囲への配慮を怠らないよう注意する必要があります。
権力を持つということは、ダンプカーのように周りに大きな影響を与えてしまうということなのです。権力を持つ人の言葉は、周囲の忖度を生み、独り歩きしかねない。だからこそ、発言の重さを自覚し、配慮を怠らぬよう注意しなくてはならない。権力を持っている人は、それだけの自覚が必要なのです。
アマチュアボクシング界のドンと言われた、日本ボクシング連盟が山根明前会長も、その配慮を怠った一人なのでしょう。山根前会長の出身地・奈良県の選手に対して、試合で有利な判定がなされるという「奈良判定」が話題となりました。前会長の圧力が審判に働いていたと、ワイドショーではバッシングされましたが、真偽のほどはわかりません。しかし、前会長にはその意識はなくても、あの風貌や口調も相まって、ダンプカーが側を通り抜けるほどの影響があったことは、想像に難くありません。
それは「首相案件」という言葉にも、同じことが言えるのではないでしょうか。ライバルの力が失われ、一強と言われる力を持つほどに、配慮と注意が必要だと思います。私自身も、年齢を重ね、社会的立場や家庭内での立場が変わっていく中で、注意しなくてはならないことだと思います。
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