2018(平成30)12月号)  
 


毎年のように思うのですが、あっという間に過ぎた一年でした。しかし、こうして年が変わるという区切りがなければ、振り返ることも、見つめ直すことも、なかなかできません。そう考えると、とても大切な時期ですね。ということで、印象に残った言葉を手掛かりに、今年一年を振り返ってみようと思います。

 
 




「悪質タックル」「奈良判定」「首相案件」


 日本大学アメリカンフットボール部の選手が、悪質なタックルで相手選手を負傷させたことが、話題になりました。アメフトでは、プレー中はどの選手にもタックルをすることが許されています。ところが今回は、プレーが中断して気を抜いた無防備なところに、背後からタックルをするという悪質で危険なものでした。しかも、監督やコーチの「相手選手を潰しに行け」「そうすれば、試合に出してやる」という指示によるものだったという選手の発言で、問題はさらに大きくなったのです。

 その後の警察捜査では、監督とコーチの指示があったことは証明されず、立件は見送られました。テレビや新聞を通して、「タックルは指導者の指示に違いない」という決めつけ、監督・コーチへのバッシングの異常さは、いかがなものかと思わざるを得ません。ただ、指示があったことが証明されなくても、監督・コーチの責任は大きいと思います。

 試合に出たいと思う選手にとって、出場者を決める権限を持つ監督は権力者≠ネのです。監督の一言は、大きな影響力となります。「相手を潰せ」という言葉は、部内では「激しく行け」という意味で使われていたようですが、それを「怪我をさせろ」と受け止めざるを得ないほど、監督の存在感が大きかったのは間違いないことでしょう。もしかすると忖度が起きて、そんな空気が熟成されていたのかも。その影響力を監督自身が自覚しなかったことには、大きな責任があると思います。

 

 お婆ちゃんが歩いている側を、小さな子どもが懸命に三輪車をこいで走り抜けても、お婆ちゃんは何とも思わないでしょう。しかしその側を、猛スピードでダンプカーが走り抜けたらどうでしょうか。お婆ちゃんは驚き、よろけ、怪我をしてしまうかもしれません。だからこそ、ダンプカーの運転手さんは、周囲への配慮を怠らないよう注意する必要があります。

 権力を持つということは、ダンプカーのように周りに大きな影響を与えてしまうということなのです。権力を持つ人の言葉は、周囲の忖度を生み、独り歩きしかねない。だからこそ、発言の重さを自覚し、配慮を怠らぬよう注意しなくてはならない。権力を持っている人は、それだけの自覚が必要なのです。

 

 アマチュアボクシング界のドンと言われた、日本ボクシング連盟が山根明前会長も、その配慮を怠った一人なのでしょう。山根前会長の出身地・奈良県の選手に対して、試合で有利な判定がなされるという「奈良判定」が話題となりました。前会長の圧力が審判に働いていたと、ワイドショーではバッシングされましたが、真偽のほどはわかりません。しかし、前会長にはその意識はなくても、あの風貌や口調も相まって、ダンプカーが側を通り抜けるほどの影響があったことは、想像に難くありません。

 それは「首相案件」という言葉にも、同じことが言えるのではないでしょうか。ライバルの力が失われ、一強と言われる力を持つほどに、配慮と注意が必要だと思います。私自身も、年齢を重ね、社会的立場や家庭内での立場が変わっていく中で、注意しなくてはならないことだと思います。




 
 
 


「そこに愛はあるんか?


 そう考えると、今年一番心に残ったCMのフレーズが思い出されるのです。それは女優の大地真央さんが、威厳と迫力ある声で言われる「そこに愛はあるんか?」という一言。強烈なインパクトと同時に、鋭く「本質」を問うものとして私の心を打ちました。

 自分に悪意はなくても周囲にプレッシャーを与えることがあり、周りが忖度すれば圧力は更に大きくなるのです。過剰な忖度が、思いもよらない暴走を生むことさえあります。そんな時、「そこに、愛はあるんか?」と中身や本質を問いかけてくださる方がいることは、とても有り難いことです。時には私も、大地さんに叱ってもらえたらと思ったのです。

 私は問い続ける営みの尊さを、親鸞聖人の生き方から教えられました。聖人の一生は、まさに苦悩と問い直しの人生だったと言えるでしょう。常に「そこに、阿弥陀様の心はあるんか。本当の心はあるんか?」と。だからこそ、親鸞聖人の出遇われた世界は、深く、豊かなのです。

 








「ボーっと生きてんじゃねえよ!」

 今年は、NHKの番組を見る機会を、多く恵まれました。特に『100de名著』は、面白かった!日頃、なかなか手に取ることができない古今東西の「名著」を、25×4回、つまり100分で読み解く番組です。ゲストのわかりやすい解説と、伊集院光さんという絶妙な案内役。極楽寺にも来てくださる釈徹宗先生は、何度も出演しておられます。こちらの頭が揺さぶられ、風通しがよくなり、多くの発見がありました。

 また、『B面談義』も私のおススメ。“イケイケ”車いす女子タレント、ゲイをカミングアウトした小学校の先生、その半生がドラマ化された全盲の弁護士などの濃すぎる面々に、司会の千原ジュニアさんがツッコミ、いじりながら、ちまたの話題についてトークするというバラエティー番組です。ジュニアさんが「コメンテーターの方の目線が違う。僕らは“見える”から見えていないものがある」と言われるように、笑いの中にも温かさがあり、気づきが生まれ、世界が広がるような気がしました。

 そして、今年のNHKと言えば、何といっても『チコちゃんに叱られる』でしょう。「いってらっしゃーいってお別れするとき、手を振るのはなぜ?」「かんぱーいってするときにグラスをカチン、あれはなぜするの?」。このような素朴な疑問を、5才(という設定)のチコちゃんが問いかける番組です。答えられなかった回答者は、チコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねえよ!」と叱られてしまいます。

 この決め台詞は流行語になるほどでしたが、この番組のすごいところは「問い」の立て方です。普段当たり前のように見過ごしていることに、「問い」を持つ。そこに、新たな発見や驚きが生まれる。こんな「問い」を持てるようになると、見慣れた景色も新鮮なものとして見えるのではないでしょうか。

 ちなみに千原ジュニアさんの座右の銘は「?!」なのだとか。クエスチョンマークとビックリマーク。つまり、「問いと驚きを、いつも持ち続けたい」ということだそうです。ジュニアさんのトークが一味違うのは、いつも「問い」と「驚き」を探し続けている目線の違いにあるのでしょう。

 

 今年一年を振り返り、どんな「問い」や「驚き」を感じたのかと考えると、まだまだ薄っぺらな生き方しかできていないことに、気づかされます。やはり、「そこに、愛はあるんか?」「ボーっと生きてんじゃねえよ!」と叱られなければ、なかなか気づけないことが多いようです。周囲への配慮を怠ることも、あるのかもしれません。大地真央さんやチコちゃんが、いつも側にいてくれれば良いのですが。

 しかし私たちには、阿弥陀様に手を合わせる時間があります。来年こそは、阿弥陀様の光に照らされながら自分を見つめ、問いや驚きが感じられるような、深みのある年にしたいと思います。実を言うと、毎年のようにそう思ってはいるのですが…。■