2014(平成26)年7月







心理学者の河合隼雄先生によると、「感謝できる人は強い人」なのだそうです。他人に心から感謝するには、自分が他人から何らかの援助や恩義を受けた事実を認めなければなりません。ところが、「弱い人はそもそもそのような現実の把握ができない」からだと言われるのです。

人間は援助したり、されたりして生きています。いや、されていない人間などいないでしょう。ところが「弱い人」はその事実を把握することができなくて、借りや負い目として受けとめてしまい、自分が相手よりも「下」だと認めねばならないと思ってしまうようなのです。

 だから、他人の援助を不必要にはねつけたり、受けたとしても重荷に耐えかねて、かえってその人を嫌に感じたり、何かと非難することを見つけたりする。中には、やたらに「すみません」を連発して、あやまり倒すような人も出てくるのだとか。

「人に恩義を受けて生かされているという現実を、把握できない」人を、河合先生は「弱い人」と指摘されます。そして、その事実 を受け容れて感謝できる人を、「強い人」と言われます。ならば、本当に「強い人」というのは、自分の弱さを認めることができる人のことを言い、「弱い人」とは、自分の弱さを認めることができない人のことを言うのでしょう。

自分の弱さを認めることができない生き方とは、まさしく「空っぽを、いっぱい詰まっているように見せている」姿ではないでしょうか。そこには、無理があり、ゆがみがあり、しんどさがあります。

自分の有りのままの姿を受け容れ、地に足をつけた生き方には、力強さがあり、共に生きる仲間があり、支えて下さる大地があるのです。

 

 曽我量深という先生が、「善人は暗い、悪人は明るい」と言われています。ここで言う善人とは、まさしく自分の善いところばかりを主張していくような在り方、つまりは自分の弱さを認めることができない人のことなのでしょう。感謝もできないような生き方は、暗いはずです。

 そして、浄土真宗でいうところの悪人とは、自分の弱さを受け容れ、自分を支えてくださる世界に深く頭が下がる人のことを言うのです。そこにこそ、本当の明るい生き方が開かれていくのだと教えられるのです。■