2016(平成28)年2月




 問題です。次の【 】に入る漢字は、何でしょう。

「可愛い子には、【 】をさせよ」

 普通は、「旅」という字を入れますよね。我が子が可愛いのなら、親の元に置いて甘やかすことをせず、世の中の辛さや苦しみを経験させたほうが良いということわざです。本当にそうだと思います。現在子育てに苦悩中である私の経験からも、親は可愛い子ほど冷静に見ることができません。やはり、色々な方々に関わっていただかなくては、親だけでは子どもは育てられないのです。周りの方々にお礼を言わねばならないと、ヒシヒシと感じております。

 ところが最近は、この【 】に別の漢字を入れる親が増えているとか。では、何を入れるのでしょうか。答えは、「楽」。最近のトレンドは、「かわいい子には、楽をさせよ」だそうです。

 曹洞宗の尼僧・青山俊董さんが、タクシーに乗られた時のこと。運転手さんが語りかけてこられました。
「今、大型連休を利用し、海外旅行をしようという家族を空港まで送ってきたところです。しかし、金持ちの家で育った子どもは可哀相ですな。」と。面白いことをいう運転手さんですね。普通なら「うらやましいですな」と言いそうなものですが。

 「一生のうちには、お金に困る日が来るかもしれない。行きたいところへはいつでも連れて行ってもらえ、欲しいものは何でも買ってもらえる環境で育ってしまうと、困ったときにもブレーキのかからない人間に育ってしまうから惨めですわな。私なんかは、貧しい上に十二人兄弟。焼き芋さえも一つずつは買ってもらえず、みんなで分け合って食べました。でも、分け合って食べた一口の焼き芋のおいしかったことは、今でも忘れられません。一つの焼き芋を兄弟仲良く分けて食べるよろこび、たった一口の焼き芋に幸せを感じるアンテナを育ててもらうことができたのは、貧しい家で、大勢の兄弟と育ったお陰ですよ。」
 運転手さんの言葉に耳を傾けながら、青山俊董尼はルソーという哲学者が、「子どもをまちがいなく不幸にする唯一の方法は、いつでも欲しいものは買って与え、行きたいところへは連れていってやることだ」と語っていたことを思い出したそうです。そして、物は分けるほどに小さくなるが、それと反比例して喜びは分けるほどに大きくなるのに、その分かち合う喜び、充実感を知らないまま育つことは可哀相なことだと、改めて思ったといわれます。


 仏教には、「ウザイガキ」という言葉があります。近頃巷でよく使われる「ウザイ」「キモイ」というような若者言葉ではありません。漢字で書くと「有財餓鬼」。たくさんの財宝に囲まれていても、まだ欲しいと貪っている生き方を言うのです。人間の欲望には限りがありません。どこまでいっても満たされることなどないのです。多くを欲しがる思いが、逆に自分を貧しくするのだと教えられるのです。
 現代社会は、欲望を満たすことで幸せになろうとしてきましたが、幸せになるどころか今や欲望に振り回され、自分を見失った生き方が広がってはいないでしょうか。今こそ、「方向を間違えてはいないか」と呼びかけられる阿弥陀様の呼び声に、耳を傾けなくてはと痛感させられるこの頃です。■