お笑い芸人の千原ジュニアさんは、若い時から才能を高く評価され、数多くの番組で活躍されている方です。一見すると順風満帆のようですが、中学時代は引きこもり、26歳のバイク事故で生死をさまよい、最近では股関節の難病にかかるなど、ハードな人生を歩まれています。中でも、引きこもっていた時期は、一番戻りたくないと思うほどツラい時代だったそうです。
小さい頃から「どうしてみんなと同じ道を歩けないんだろう」と思っていた。絵を描いて、太陽を紫色に塗ると先生から怒られた。独自の感性が、周りに分かってもらえない。学校も居心地が悪く、居場所もなく、違和感しかない。いつしか部屋に引きこもり、「この先どうしようか」といつも考えていた。インターネットもなく、「不登校」にも理解のない時代。でも学校に行って勉強してという先に、自分の人生があるような気がしない。「じゃあ、どっちの方向やねん!」って言われてもわからない。でも、こっちの方向じゃないことだけはわかっていた…。
そんな中、兄のせいじさんに「漫才コンテストに出るぞ。相方になれ」と声をかけられ、お笑いの世界と出会います。とはいえ、今まで人を笑わせたこともないし、どうすれば笑ってもらえるかもわからない。仕方なく、居心地の悪かった中学時代の違和感をネタにすると、これがウケて。そこから、芸人としての新たな人生が始まりました。すると「引きこもっていた時のことを小説にしませんか」という話が持ち込まれ、それが『14歳』という本として出版され、ベストセラーになりテレビドラマ化もされる。地獄のようだったツラい過去が、「こんなふうになるのか。不思議なもんだなぁ」と思えるようになったのです。
26歳で起したバイク事故では、ようやく出会えた居場所を失う絶望感を味わいました。ところがそこで、お見舞いに来てくれた先輩たちの励ましに、多くの人たちの優しさに包まれていたことに気づかされます。そこから復帰を決意し、芸風も変わり、人間的にも成長させてもらったと振り返っておられるのです。
ジュニアさんは、「人生をシーンで見るのではなく、ストーリーとして見て欲しい」と言われます。ワンシーンだけを見れば地獄のような日々も、ストーリーとして見ると「あれもあって良かったなぁ」「あの時期があったから、今がある」と振り返ることができるかもしれない。これから自分の知らない楽しいことや、素敵な人に出会えることもあるんじゃないか。だから、今はつらくても、人生を一つのシーンで決めつけないで欲しい。もちろん、ストーリーは一つ一つのシーンの積み重ねだから、より良いストーリーにするためにも、一つのシーンに何を見出していくのか。何に気づけるかを大切にして欲しいと。(『5Speech.卒業生・社会へ挑戦する人へ』)
人生は、まさに物語なのです。もちろん過去は変えることはできません。しかし、気づきや出会いの中で自分が成長すれば、見直すことができる。まさに、これからが、これまでを決める≠ニ言えるでしょう。ならば、「このシーンは、どんな物語へと繋がっていくのだろう」というワクワク感さえ生まれてきそうです。
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