「俺は満足しない」
以前、ある有名な日本企業の年間利益が、五兆円にのぼったことが話題になりました。五兆円と言ってもピンと来ない方もあるかもしれませんね。数字に直すと5,000,000,000,000円。何と0が12個!とんでもない数字です。その大企業の会長は創業直後、二人しかいなかった社員に「いつか必ず売り上げも利益も一兆、二兆と、豆腐屋のように数えられるようにしてみせる」と宣言したそうですから、まさに夢が叶ったというところでしょうか。
ところが、その会長はこう言われたそうです。「私は五兆円や六兆円で満足する男ではない。十兆円でも全然満足はしない」と。私はその発言を聞いて、「この人は、一体いくら儲けたいのだろうか」とゾッとしました。だって数字は、その後ろに0をつければ、永遠に増えていくのです。ですから、数字を増やすことの先に、満足があるとはとても思えません。数字に執着し、「もっと」「もっと」と欲望が過剰に煽られていく。気がつけば世界中がマネーゲームに振り回され、貧富の差が広がり、上位1%の富裕層が世界の個人資産の四割近くを保有するような状況になりました。
私なんかが見ても明らかに行き過ぎだと思うのですが、その渦中にあると、どんなに優秀な人であっても異常さに気づけないのですね。歴史をふり返えれば、優秀な人が過剰さと異常さに気づけずに暴走し、悲劇を生んだという事例はいくらでもありますし。まさにブレーキの壊れた自動車に乗って、さらにアクセルを踏み続けているようなもの。これでは、「及ばざるは、過ぎたるより勝れり」どころではありません。「過ぎたるは、及ばざるよりなお悪し」と言わざるを得ないのが、現状のようです。
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