「都会には自然がない」とよく言われます。しかし解剖学者の養老猛司さんは、自然がないとは単に植物がないことではなく、人間にとって自然なことであるはずの「生老病死」、特に「死」がないことだと言われています。考えてみれば、死ぬことは人間にとって自然なことですが、私たちは「死」を不自然なこととして、生活から遠ざけてしまいました。
以前、ある製薬会社が、二十代から六十代の男女千人を対象に『いのちの大切さに関する意識調査』をインターネット上にて実施し、その中に「あなたがあと一カ月で人生を終えるとしたら何をする」という質問がありました。皆さんなら何をしますか?最後だからと、自分が楽しむための時間にする意見が多いと思いきや、一位はなんと「親孝行をする」。二位は「お世話になった人に恩返しをする」。三位、四位は「世界を旅行」「食べたいものを食べる」が入りましたが、五位は「疎遠になった友人に会う」、六位が「社会貢献活動をする」と、人とのつながりを意識させる答えが数多くありました。
つまり、私たちは「死」を意識することで初めて、人生にとって何が一番大切なのかを考えさせられるのでしょう。「死」を見つめるとは、実は「生」を見つめることなのです。現代とは、「死」という自然なことから目を逸らしたことで、「生きる」ことが見えなくなった時代だといえるでしょう。■
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