一昨年、故緒方拳さんの出演映画を集中的に観直した時期がありました。大好きなのは、『鬼畜』(1978年 野村芳太郎監督)と『楢山節考』(1983年)。どちらも人間の弱さ、愚かさ、悲しさ、それを突き抜けた優しさを、深く描いている作品です。私たちが日頃敬遠しがちな面が、作品をより深いものにしていることに驚きました。『復讐するは我にあり』(1979年)も凄かった。最近リメイクされましたが、こちらは正直見劣りしました。

 それは演技力の差というよりも、人間の弱さや愚かさから目を逸らし、正しさや強さばかりを求める、今の時代の幅のなさによるものだと思います。『楢山・・』『復讐するは・・』を監督した今村昌平の、人間を底の底まで見つめようとするまなざし。そして、それに応えるような緒方の演技には圧倒されます。幅のない時代を代表するような私ではありますが、そんな見方が少しでもできたなら、人間の幅や深みも出てくるのかもしれません。
  今年もよろしくお願いします。■