昨年を表す漢字が「絆」だと発表されました。震災を通して大切さを感じさせられたと同時に、その大切さを見失っていたことを考えさせられた一年でもありました。先日長門市で、ジャーナリスト桜井よしこさんが「これから、日本はますます強くならなくてはいけない」という趣旨の講演をされたそうですが、私たちは「人間の強さなど大自然を前にしたら、本当にちっぽけなものだ」ということを思い知らされたはずです。人間は小さいし、人間は弱い。でも、そのことを知るからこそ、助け合いやお互いさまが生まれ、「絆」も大切さにできるのではないでしょうか。

 文化人類学者上田紀行さんの所へ、教え子が相談に来たそうです。彼の会社は成果主義を取り入れたようで、それまでは、みんな「ヤバいよ。オレ、こんな失敗しちゃったよ。」と失敗を口にして、「じゃあ、手伝ってやるからガンバレよ」というヤツもいて、それなりにみんなが生き生きと働いていました。ところが、成果主義を取り入れた途端、みんな成功した話しかしなくなったというのです。それは、失敗がなくなったのではありません。隠し始め、表向きの強さを主張し始めたからなのです。しかし一皮向けば、劣等感と妬み・嫉みが渦巻いている。そんな職場が嫌になり、辞めたいというのが相談の内容でした。人間が本来持っている弱さに向き合うことなく、強さばかりを追い求めたことが、実は「絆」を見失った世の中を生み出したのではないかと考えさせられます。こんな時代だからこそ、弱さときちんと向き合う一年にしたいと思っています。今年もよろしくお願いします。■