十二、関東を拓く二人の賢者 寿子夫人の願い(了) 




 

群馬県庁に隣接する、高浜公園の一角にある迎賓館「臨江閣」の本館には、楫取氏関係の特別展示ブースを設け、萩市、松下村塾、素彦氏の経歴などに加えて、寿子夫人と清光寺の紹介展示をしている。県令夫妻とその事績を敬愛の念をもって大切にしていることを強く感じる。


















 『関東を拓く二人の賢者―楫取素彦と小野島行薫』の著者韮塚一三郎氏は同書の218頁で次のように述べている。これに付け加える言葉はない。


 「元来、素彦は学者であった。そして誠実な人間であった。彼は縁の下の力持ちにあまんじ、表立つことを快しとすることがなかった。松下村塾の教育や県令としての素彦の徳育の重視を見るにつけ、歴史が教えてくれることは、いつの世にも「人間」をつくることが先決、根本だということである。
 素彦の妻、寿子は熱心な真宗信者(妙好人)で、素彦にすすめ、真宗の布教により、人々の心を浄化し政治の進展を図り、埼玉、群馬を人間性豊かな土地にしようとしたのである。つまり寿子は、人間性豊かな民衆自身の手による郷土づくりを、仏教によってなそうとしたと言える。 そして小野島行薫は、その理想の実現をなしえた有能な僧であった。しかしその実現にあたっての行薫の困苦は並大抵のものではなかった。その艱難を乗り越えた力のよってくるところは、明如はじめ偉大な先賢を仰ぐ行薫の心の豊かさにあったのであろう。」



(了)






 
 
 
『吉田松陰投獄後の松下村塾を託されていた 男爵 楫取素彦の生涯』
楫取素彦没後百年顕彰会編集
発行 公益財団法人毛利報公会







 

『関東を拓く二人の賢者 楫取素彦と小野島行薫』
著者 韮塚一三郎
  発行 さいたま出版会