2017(平成29)年3月


 

❏映画『この世界の片隅に』が、キネマ旬報日本映画ベストワンに選ばれました。この映画は、まさに名作、いや傑作と言い切れるほどの作品だと思います。クスクス微笑み、ハハハと笑い、ホロリと涙がこぼれ、最後には号泣状態。しばらく立ち上がることができませんでした。太平洋戦争末期の広島・呉を舞台にしたこの作品。抗うことのできない時流の中で、それでもこの世界の片隅にある小さな喜びを感じながら生きようとする人々の姿を描いています。いや、そんな片隅に生きる人々の営みによって、今もこの世界は成り立っているはず。一部の政治家や投資家たちのものでは、決してありません。単なる「反戦」という言葉では語り尽くせないほどの、豊饒なメッセージに満ちた素晴らしい映画でした。❏宇沢弘文という経済学者は、「本来は人間の幸せに貢献するはずの経済学が、実はマイナスの役割しか果たしてこなかったのではないかと思うに至り、がく然とした。経済学は、人間を考えるところから始めなければいけない。」と言われています。経済優先・市場原理主義という考え方が格差を生み、人間らしさを奪い、断絶や怒りを生み出し、トランプ現象へとつながって世界は混乱に向かっています。こんな時代だからこそ地に足をつけ、この世界の片隅にあるささやかな営みをこそ、尊んでいかねばならないのではないでしょうか。今こそ、優しさを。誠実さを。朗らかさを。■
 




 2016年12月
 2017年4月