2023(令和5)年12月


 

❏ 以前、極楽寺にお話に来ていただいた映画監督・森達也さんの最新作『福田村事件』がヒットし、話題になっています。これまで数々のドキュメンタリーを手がけてきた森さんにとって、初の劇映画作品。出演者は井浦新や田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、柄本明ら。各メディアにも取り上げられ、毎日新聞では、池上彰さんとの対談が一面に掲載(11月5日)されました。❏ 今から百年前。関東大震災直後の混乱の中、「朝鮮人や社会主義者による放火や暴動が起きた」というデマが飛び交います。日頃から差別してきた負い目もあってか人々の警戒心は高まり、またそれを煽る者もあり、遂には多くの朝鮮人が虐殺されるという事態となりました。その影響は近隣にも広がり、千葉県福田村(現野田市)でも、香川県から訪れていた被差別部落出身の行商人たちが、自警団や村人らによって殺害されます。讃岐地方の方言を村人が聞き取れず、朝鮮人に疑われたため。今回の映画は、実際に起きたこの事件をモデルに作られました。映画の終盤、殺害される寸前の行商人の一人が、『正信偈』を唱えるシーンが出てきます。全国的にも、被差別部落の人たちの多くは、浄土真宗の門徒だったからです。❏ 村人たちは、自分たちを守ろうとしただけでした。善良で、優しく、中には気が弱い人もいます。そんな人々がデマに怯え、恐怖し、自衛のための集団となった時、暴走し残虐な過ちを犯してしまう。それは映画の中の話ではありません。今も、世界中のSNSにはデマやフェイクが溢れ、それに煽られ、実際にヘイトスピーチやヘイトクライムが起きています。「自衛のために」とロシアはウクライナを、イスラエルはガザを攻撃していますし、同様の歴史は、世界中に幾らでもありました。なぜなら、それが人間という生き物だから。私だから。そして、あなただから。その事実に目を背けてはいけない。向き合わなくては、また同じことを繰り返すだけ。森さんを始めとしたこの映画の作り手たちは、そう語りかけています。とても大きな意味を持った映画だと感じました。❏ 但し、深刻なテーマを扱った映画でありながら、ドラマとして純粋に面白いのです。ちなみに、エンドロールのクラウドファンディング寄付者の中に、住職の名前もあるそうです(一緒に行った坊守が見つけてくれました)。■





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